3年近くに渡り執筆いただいていた小沼純一さんのコラムは、惜しまれつつも終了となりました。今後は私たちスタッフが、あまり語られることのない裏話やとっておきのエピソードなどを書き綴っていきます。こんなことが知りたいといったリクエストもお待ちしています。
© 1962, 1996 Columbia TriStar Films (France) S.A. and Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
さて、記念すべき第1回のテーマは、“オリジナルとはなんぞや”。いきなり大きな話にしてしまいました。(笑) そもそも、これを書くきっかけとなったのは、『シベールの日曜日』のDVDを発売した際に、「本編がカットされている」というネットの書き込みを見つけたからです。オフィシャルにコメントする場がなかったので、これまで沈黙しておりましたが、さすがにどこかで説明しないとまずいと思った次第です。結論から言いますと「カットされているかもしれない」です。書き込みにあった<劇場公開版>ないしは<テレビ放映版>を確認することができませんでしたので、あくまで「かもしれない」という表現をしています。まず弊社が勝手に本編をカットすることはありません。海外の権利元から届いたマスターに、キズやごみなどを消す修正以外に手を加えることはありませんし、本編の改編をすれば契約違反で訴えられる可能性すらあります。今回権利元から届いたマスターは非常にきれいなものでした。キズの修正などの必要もなく、そのままDVDのマスターとしました。自信を持って発売したのですが、書き込みを読んで「?」となったわけです。では、一体何が真実か。
映画を作る作業においては、何十時間ものシーンを撮影します。それを編集して2時間程度の作品にまとめます。その過程において映画会社、製作会社、監督、プロデューサー、編集、様々な立場の人たちが、あれこれ口を出して切り張りするのです。その作品がどういう契約のもとに作られるかにもよりますが、監督が一切口出しできない場合もあります。つまり、私たちが見ている映画は、その権利を所有する人がOKを出した映像です。それは、前述のように監督が意図したものではないこともあります。監督または映画会社が、名前を出すのを嫌がって架空の監督名アラン・スミシー(また別の機会に書きます)名義になることもあります。監督と映画会社がもめて有名になったのは『ブレードランナー』ではないでしょうか。何と【5版】ものバージョンが存在します。そうなると、オリジナルはどれ? となります。公開したバージョンか、監督が意図したバージョンか。では、なぜそういうことが起きるか。それはまさに、それぞれの立場の人の言い分があるからです。「長すぎる」「短すぎる」「難解すぎる」「アクションが足りない」などなど…。また、全世界で公開を考えると、各国の表現規制を考慮する必要があります。過度のバイオレンスシーンやエロティックな表現、差別的な描写などは要注意です。実は日本は一番ゆるい国の一つでした。それこそ、“全世界で上映禁止”を謳い文句に公開された作品も数多くあります。世界的に見れば規制は多く、その国向けに本編がカットされることは珍しくありません。本来はロードショー公開時か名画座などでしか見られなかった映画ですが、テレビ放映の機会が増えたことやDVDなどのパッケージ販売が広がったことで、劇場公開後でも本編に手を加えることが増えました。「やっぱり、あのシーンを復活させたい」とか「パッケージ向けに再編集したい」とか監督や映画会社が言い出すわけです。
誰もが知っている作品ですと、『スター・ウォーズ』『未知との遭遇』『E.T.』などがカットされたシーンを復活させたり、CGなどの手を加え、特別編として再公開されました。ハリウッド大作ばかりではありません。弊社が2009年末に公開した『バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版』は、パーシー・アドロン監督が映像の色味や画面のトリミングサイズを変えたバージョンです。そもそも、1994年に日本公開版から15分ほど長くなった<完全版>(厳密にはヨーロッパ公開版)がリバイバル公開されています。つまり『バグダッド・カフェ』は【3版】あることになります。それこそ、1本の映画から何通りものバージョンが作れてしまうわけです。実は、弊社から発売しているDVDで、ニューマスターと旧盤を見比べて内容が違っていたことは何作かあります。『ハーダー・ゼイ・カム』『女性上位時代』など。『死刑台のエレベーター』は監督の息子が、父の意向として画面サイズを変えています。それぞれに理由あっての改編で、日本側で行ったものではありませんし、そういった作業を経た上で、最良のマスターとして提供されるのです。
ようやく『シベールの日曜日』に戻ります。カットされたかもしれないシーンに関して、権利元経由で監督に確認しましたが返事はもらえませんでした。今回のマスターは、権利元が現存する最良のコンディションのものを送ってきています。内容に関しては、監督や映画会社の意向、オリジナルマスターの状態など、何かしらの事情で日本で公開されたバージョンと違う可能性はあります。とは言え、当社としましては最良のマスターによるDVDとして発売できたことを嬉しく思っています。 たかだか20年ほど前には、映画を見る術と言えば、映画館、地上波、WOWOW、レーザーディスク、レンタルビデオくらいしかありませんでした。それが今や、携帯端末で映画を持ち運べる時代になってしまいました。CGで修正され極端に鮮明になったり、劇場公開と違う編集版を見ると若干の違和感を覚えたりしますが、それでも昔に比べ綺麗な画質の映画を見る機会が増えたことは純粋にありがたいと思います。(T)