Cinefil DVDスタッフによる制作裏話

第2回「DVDの値段の差はどこから来るか?」

今回は、DVDやブルーレイ・ディスク(BD)のお値段の話をします。けっこうリアルな話です。

冬の小鳥

「冬の小鳥」

© 2009 DCG Plus & NOW Films, GLORIA Films. All Rights Reserved.

海外作品の最近の傾向としては、この前まで劇場で公開されていた新作がDVDになる時は大体、税抜4,000円前後、ブルーレイだと5,000円前後の値付けが多いですね。ただし、ハリウッド・メジャー(ソニー、ディズニー、パラマウント、ユニヴァーサル、ワーナーブラザース)の作品の場合だと、時間が経つうちに安くなっていきます。最終的には、お店にある「どれ3」(どれでも3枚選んで3,000円)のワゴンとか、棚に並んだりすることもあります。DVDが1枚1,000円。安いですね。BDもキャンペーンとかで2枚買うと1枚あたり2,500円というあたりでしょうか。最近は、旧作の映画のBD化の場合は、最初から2,500円という値付けにしてあるタイトルもあります。

さて、弊社が扱うタイトルは圧倒的に旧作が多いわけですが、DVDは4,800円がスタンダードな価格です。最近ですとH. G. クルーゾー監督の『恐怖の報酬』『悪魔のような女』が4,800円。一方で、昨年、岩波ホールほかで公開された新作『冬の小鳥』『クレアモントホテル』のDVDは各3,800円。BDはまだ2作品しか出していませんが、『バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版』が4,800円、先頃リリースした『山猫』はなんと7,200円! 高いです。

このようにDVDやBDの値段には微妙な、時に大きな格差があります。この差はいったい何に由来するのでしょうか。

話を分かりやすくするために、また実際的にするために、弊社でDVDやBDを制作・発売する場合と、ハリウッド・メジャーとの場合を比較してみたいと思います。あくまでも大雑把な話ではありますが……。

クレアモントホテル

「クレアモントホテル」

© 2005 Claremont Films,LLC

弊社がある作品のDVDやBDを制作・発売するためには、その映画の権利を持つ海外の会社から「日本でDVD化、BD化する権利」を購入する必要があります。この値段は作品によって違いますが、大体、何百万円の下の方から上の方まで、といったところです。契約期間は5年ということが多いのですが(同じ映画のDVDが何年かすると違う会社から出るのは、この契約がそちらに移ったからです)、それよりも短い場合も多い場合もあります。一方でメジャーの場合は、そもそも自社の作品ですから、これを払う必要がありません(もちろん、DVD、BDの収益から監督や俳優などに対する印税は発生するでしょうが)。ここにまず「数百万円」の差が生まれます。さらにはメジャーが作品を保有する権利期間は最長で70数年あります。

DVDやBDを制作するためには、映画のマスターテープ(フィルムから磁気テープに変換され、画像や音声上の傷やゴミを修復したもの)のデータを、ディスクの容量に収まるように圧縮(=エンコード)、さらに字幕データやメニューのデータを用意して、これらがきちんと関連しあって再生されるように組み上げるオーサリングという作業があります。オーサリングされた全てのデータは工場に送られて、そこでディスクが量産されていく、という流れです。

悪魔のような女

「悪魔のような女」

© 1954 ─ TF1 INTERNATIONAL ─ VERA FILMS

メジャーの場合は量産前の作業を全て本国の拠点で一括して行うことがあるようです。特にブルーレイについてはあらかじめ各国でリリースすることを前提に多言語の字幕や吹替なども用意し、リリースする国ごとに再生できるデータを取捨選択して、いわばバージョン違いを拵えるように作っていく(作業量は増えますが、各国で別々に作るよりは大幅にコストを削減できるはずです)。あるいは、まったく同じディスクをアメリカでも日本でも共用することもあります(盤面やジャケットのデザインだけ現地仕様にして)。メジャー作品は世界中が市場ですので、1作品あたりの売れる枚数は少なくても何万、ヒット作なら何十万枚、何百万枚の単位です。原盤を作るためのコストはその何十万枚、何百万枚に分散されていきます。

一方、私どもの場合は日本の市場のためだけに、この原盤を作る作業を行います。字幕や音声を何カ国語も入れるわけではありませんから、メジャーがやってるほどには手間はかかりませんが、それでも一定の少なからぬコストは発生します。そして売れる数は……なにしろ弊社で扱っているのはヨーロッパやアジアの古い映画であることが多く、それらをご購入される映画通の方々の数はハリウッド映画の購買層に比べればはるかに小さいものです。正直に言いますが、かなり通好みな作品ですと何百枚、ちょっと売れるもので1000枚~3,000枚、何年かに一度、1万枚を越える作品がある、といったところです(それも5年くらいの期間をかけて、です)。1枚あたりにかかってくる原盤制作のコストの比重はハリウッド作品に比べると随分大きなものである、ということがお分かりいただけるでしょう。加えて、先に述べた権利料も売れる枚数で割っていかないといけません。

山猫

「山猫」

THE LEOPARD © 1963 Twentieth Century Fox Film Corporation. Renewed © 1991 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

いかがでしょう? こうしたことを踏まえて、もう一度弊社の最近の作品の値付けを見てみます。DVDは古い作品は4,800円、新作が3,800円。これは公開されて間もない新作の方が認知も広く、映画館で見逃したのでDVDで観よう、という人もいらっしゃるので、ある程度のご購入者が見込めるだろうということで安めに設定しているわけです(それでも業界的には普通の価格ですが)。そして『バグダッド・カフェ』のBDが4,800円。一般にBDがDVDより高いのは、先ほど説明した原盤にかかるコストがまだDVDよりもBDの方が高いということの反映です。では『山猫』の7,200円は!? これは単純に権利料がけっこう高額だったとご理解ください。なにしろ映画史的にも最重要の価値をもつ作品ですし、今回のHDマスターはとんでもない時間と労力をかけて修復されたものですから、権利元としても、そうそう安いお値段では……ということなのです。確かに高いです。もしかして今日本で出ている一枚もののBDの中では最も高い商品かもしれません。ですが、既にご購入いただいた方々が書かれたブログやツイッターではその高画質について高い評価が出始めておりまして、「値段は高い。だが、その価値がある!」というお言葉をいただいております。どうもありがとうございます。

もちろん、私どもとしても、なるべくお手頃な価格でDVDやBDをご提供したい、という気持ちはあります。ただ、ファンの数の限られた作品を今後もご提供し続けるためには、現状の値付けでもけっこうギリギリ、というのが正直なところ、なにとぞご容赦いただければと存じます。その一方で、各作品には解説リーフレットやブックレットをつけたり、BDではデジパックとスリーブケースを採用するなどして、その映画への理解や愛情がより深まるような仕様の工夫もさせていただいています。「そんなことより少しでも安くしてくれ!」というご意見もあるとは思うのですが、映画一作品一作品を大事にプレゼンテーションしたいのが<シネフィル・イマジカ>でございます。引き続き、ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。(Y)

※今回のお話は、あくまでもざっくりとしたDVD制作の背景をご紹介しています。権利料や制作にかかるコストは様々な要因で作品ごとに大きく異なってきます。また、邦画の場合にはまた違った事情があると思いますが、市場が日本国内中心ですので比較的高い価格設定になっています。